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カラス、まるまると太る [京の交通事情]

 学生時代、「烏丸」を「とりまる」と読んだ友人がいた。烏(からす)と鳥(とり)という字は確かに似ている。「鳥」は象形文字で、真ん中の横棒は鳥の目を表している。一説には、カラスは真っ黒でどこが目玉だか見分けがつかないので、目を書かなかったのが「烏」という字の始まりであるという。それはさておき、京都駅の正面玄関を烏丸口といい、そこからまっすぐ北進する大通りが烏丸通である。この「烏丸(からすま)」とは、変な名前だ。第一、「からすまる」ではなくて「からすま」という読みは、ちょっとした難読地名といっても良いだろう。京都の通りの名や町の名には、こういう難解なものが少なくないので、時折困ることがある。
 笑い話だが、「烏丸丸太町(からすままるたまち)」を「からすまるまるふとるまち」と読んだ人があるそうな。都会のゴミグルメでメタボになったカラスを連想して、思わず噴き出した。烏丸丸太町とは、南北に走る烏丸通と東西に走る丸太町通の交差点のことで、京都御苑の南西角にあたる。市営地下鉄烏丸線の丸太町駅があるところである。
 ついでに笑い話をもうひとつ。ある観光客が南禅寺近くで、哲学の道へはどう行ったらよいかと尋ねた。「このまままっすぐ上がらはったら…」その観光客は坂を上って山へ…。「上がる」「下がる」は住所に書かれるだけでなく、割と普通に話されている。京都の人は、それが「北上する」「南下する」の意味であることすら意識せずに使っている感がある。そして、条坊制の名残をとどめる鴨川以西に限らず、東山や伏見でも、この言い方が使われているようだ。方位磁針がなくとも、周囲の山や流れる川を見れば、方位はわかってしまう。それほど、京都の街は狭い。また、北へ行くほど僅かずつ標高が高くなることも事実である。
京都鉄道路線図.jpg
 先の烏丸丸太町だが、これは町名ではない。烏丸丸太町交差点の周りの町名は、春日町、光リ堂町、大倉町などである。例えば、交差点南側の大倉町の住所は、京都市中京区烏丸通丸太町下ル大倉町となる。この言い方には、場所の特定と行き方の説明が混在している。つまり、京都市中京区大倉町が場所の名前(地名)だが、その間に挟まっている「烏丸通丸太町下ル」は「烏丸通と丸太町通の交差点から南へ行きなさい」という意味だ。これは、京都市内の通りの名前と位置関係が頭に入っていれば、実に解りやすい。北緯何度、東経何度と言われているようなもので、その場所がピンとくる。だが、その知識がないと厄介だ。だから、「姉三六角蛸錦…」といった暗唱用ともとれる通りの名を織り込んだ歌ができたのかもしれない。逆に、京都では町名を言ってもまず通じない。例えば東京駅でタクシーを拾って、「有楽町」と言えば、すぐに行ってくれるだろう。しかし、京都駅でタクシーに乗って「真町」と言ったって、わからないのではないかと思う。真町は、京都高島屋のある町名、京都で一番の繁華街、四条河原町付近である。
 30年近く前のことになるが、友人と京都を旅行したことがあった。金閣寺から、当時まだできたばかりの地下鉄北大路駅までバスに乗った。乗り込んだバスが循環系統だったので行き先を確かめるため、友人は走っている車中で運転手にこう訊いた。「このバスは、北大路に停まりますか?」運転手、むっとした顔で「今、北大路ですわ。こんなとこでは停まれまへん。」僕たちはまさに、金閣寺付近から北大路通を東に進んでいるのであった。
 さて、この通りの名前による土地の表し方であるが、電車の駅名にも応用されている。これがまた、外来の者にとっては厄介である。市内中心部を走るおもな鉄道には、南北に京阪線と地下鉄烏丸線、東西に地下鉄東西線と阪急京都線がある。例えば、烏丸通の下を走る地下鉄烏丸線で見ると、京都駅以北の駅名は、五条、四条、烏丸御池(からすまおいけ)、丸太町、…と続く。この路線と阪急京都線が交わっている。地下鉄四条駅と同じ位置にあるのが、阪急線の烏丸駅。両者は同じ駅であるにもかかわらず駅名が違うのだ。烏丸通の下を走る地下鉄は、四条烏丸の交差点に「四条駅」と名づけ、四条通の下を走る阪急線は同じ交差点に「烏丸駅」と名づけて、双方譲らない結果が、そうなっているのである。これは、観光客などにとって、誠に紛らわしい。同じ地下鉄どうしなら、烏丸線と東西線の交点を「烏丸御池駅」として互いに譲歩しているというのに。
 鴨川縁を南北に走る京阪電鉄は、2008年10月に京都市内の3駅の駅名を同時改称した。具体的には、丸太町→神宮丸太町、四条→祇園四条、五条→清水五条である。それまでは、地下鉄烏丸線と同一の駅名が3つ存在していたのである。神宮丸太町と地下鉄丸太町、祇園四条と地下鉄四条、清水五条と五条は、それぞれかなり離れている。乗り換えなど不可能だ。東京で都営地下鉄大江戸線が開通したときに、大江戸線蔵前駅と既存の浅草線蔵前駅が離れていて、乗り換えに路上を歩かなければならないということで問題になった。京都の6駅は、それどころの隔たりではなかったのだ。それが、市営地下鉄が開業したのが1981年だから、27年間並立していたことになる。今回の駅名変更は、先に駅を設置していた京阪の方が身を引く形になった。
 それでもまだ、「丸太町」が町名ではなくて通りの名前だという意識がないと、神宮丸太町と丸太町は近所だというイメージを持たれてしまうのではないかと心配している。同じようなことは、JR京都線の西大路駅と地下鉄東西線の西大路御池駅などにも言えると思う。ちなみに、京阪線の祇園四条駅は四条大橋の東詰め、阪急線の河原町駅は四条大橋の西詰めに当たる位置である。両駅は大橋を渡るだけで乗り換えができるのだ。これなども、観光客などにはわかりにくいかもしれない。

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コメント 4

miyata

当たり前と思っていることの中に、わかりづらいことが含まれてるんですね。こういう指摘はされてなるほどと思ってしまいました。
by miyata (2008-12-10 04:51) 

bamboo

まだ駅名が重複しているものに、地下鉄と近鉄の十条駅があります。乗降客がさほど多い駅でもなく、観光地が近くにあるわけでもないので、こちらは今後も改称されないだろうと思いますが。
by bamboo (2008-12-11 23:30) 

opas10

旅人にしては三条も面白いでよ。京阪は普通に「三条」なのに市営地下鉄の方が「三条京阪」って京阪の名前を使っていたりして。
by opas10 (2009-08-16 17:41) 

bamboo

 opas10さん、コメントありがとうございます(遅まきながら)。
 昔、千葉の京成線に「国鉄千葉駅前」という駅があったのを、思い出しました。これとは関係ないですが。
 「三条京阪」という言い方は、地下鉄開業以前からありました。これは、「京阪」を通りの名前に準じて用いたものかと思われます。上の文章に北大路駅の例を書きましたが、三条でも、ただ単に「三条」と言ったのでは東西に長い三条通のうち、どの位置なのかわからない。そこで「京阪」というY座標をつけて初めて、一点に定まるわけです。
 でも、それを言うなら「京阪三条」だろ?と言いたくなりますね。これは、自分がどっちの通りを進んでいるかという考え方になるかと思います。自分のいる位置を先に言うようです。地下鉄東西線は御池通から斜めに三条通に入り、京阪と交差しています。
by bamboo (2009-09-05 01:39) 

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