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東京発のテレビ番組 [東京と京都]

 東京の中に京都はないが、京都の中に江戸はある。東映太秦撮影所。その歴史は1925年に始まるというから、大変なものだ。今ではテーマパークとして名高いが、JR嵯峨野線で西に向かうと、進行方向左側の車窓に撮影所の長い塀と、幾棟もの倉庫のような建物群が目に入り、無造作に置かれた古い大道具のようなものも見える。あの広い囲いの中には江戸の町が広がり、80年もの間、「べらんめぇ」「あたぼうでぇ」が飛び交っているかと思うと不思議だ。当然、エキストラも京都人が中心であろう。京都人が素性を髷の下に隠して、江戸っ子に成りすましているかと思うと、ちょっと笑える。
 太秦でなくても、京都で撮影される現代のドラマ、映画は多い。少し考えただけでも、船越サンとか、片平サンとか、橋爪サンとかが出演する場面が目に浮かぶ。だいたい、火曜何とか劇場とか木曜何とかドラマという2時間枠で、推理ドラマが中心である。実は、京都に住む者が見ると、他の地域の人にはちょっと味わえない楽しみがあるのだ。
 それは、これらのドラマに共通する3つの特徴だ。その1は、「事件は会議室で起きてるんじゃない。名所旧跡で起きてるんだ!」というものである。ホトケは嵐山の桂川か、鴨川のほとりで発見される。早速聞き込み開始だ。何故か、現場とは離れた錦市場や八坂神社、時には大原あたりまで足を伸ばす。犯人はついに追い詰められ、渡月橋を渡りながら、ぽつぽつと身の上を語り出す。「その時なんです。あの男が現れたのは。」ところが…、渡月橋を渡り終えると、そこは赤い鳥居が続く伏見稲荷の参道である。超人的な瞬間移動をしておきながら、何事もなかったように話し続けている。そして、哲学の道を歩いていたかと思ったら、次の瞬間には、清水寺。舞台から京都の夕暮れを見ながら、涙がすうっと…。さあ、お待ちかねのツッコミどころだ。2人でわざわざ拝観料払ったのかい?
 その2は、「伝統工芸士を疑え!」である。被害者やその家族は、決まって古き良き京都の生活を頑なに守って暮らしている人々である。今時の若い女性が着物で生活し、どっしりとした古い家屋に住み、庭に打ち水などしながら、ふと手を止めてため息をついたりなんかしている。父親は昔気質の職人だ。作務衣に手ぬぐい、一点を見つめて手仕事に打ち込み、娘の結婚に反対している。だが、彼は事件に結びつく鍵を握っているのだ。そして、それは一般人の知らない、専門的な知識の中にある。時には、凶器の刃物が、特殊な工芸でしか使われない専門用具だったとか、非常にわかりやすい展開になっている。まるで、京都には普通のスーツを着たサラリーマンやOLはいないみたいだ。
 その3は、「東京人、京都を征服す」というものだ。主人公のルポライターあるいは記者もしくは刑事は、必ず東京から赴任してきた人間である。しばしば、右腕となる人物や被害者も東京の人間。ドラマの中心になってストーリーを引っ張っていくのは全員標準語をしゃべる人間である。京都弁をしゃべるのは、目撃者か犯人側の人物。それも極端な京都弁、舞妓さんが話すような京都弁である。ただし、主人公の側近にも、やたらに京都の歴史や伝統に詳しい京都弁の女性がいる。山村サンや市田サンの役どころだ。この人物との何気ない会話の中で、「あっそうか!」と事件解決の糸口を見つける。
 これを東京を舞台にやったら面白いだろうな。ある朝、お台場の某テレビ局前で死体が発見される。犯人の遺留品は、雷おこしの包装紙。東京の警視庁を差し置いて、京都から江戸切子の取材に来ているフリーライターが捜査に乗り出す。聞き込み開始。汐留にいたかと思えば柴又で草だんごを食べている。次の場面では、六本木の大きなクモの下で、ついに容疑者の告白が始まる。「その時なんどす。あのお人が現れはったんは。」もちろん、犯人はべたべたの京都弁である。そして、東京タワーの展望室で東京の夕焼けを見ながら…。入場料払ろとんのかい!
 冗談はさておき、ドラマの背後に製作者サイドの思惑が見え隠れする。京都を舞台にすると視聴率が取れるのだろう。それは、東京(その他、京都以外の地域)の人の「京都」への憧れが背景にあり、京都の名所旧跡をチラチラ出すことが視聴者の期待でもあるのだろう。だから、あり得ない瞬間移動は、「お約束」なのかもしれない。また、もっと素直に考えて、京都へ撮影に来たスタッフが京都の美しい景色に出会い、純粋にこれを撮りたいと思うのかもしれない。京都まで来て、わざわざ貨物倉庫や怪しい地下街やビルの谷間を撮ることもない(もっとも、京都にはあまりそういうところはないが)。
 だが、京都に住む者としては、もっと真の京都を見てほしいと思う。寺社と先斗町と高級料亭と伝統工芸だけが京都ではない。誰もが舞妓さんのような京言葉を使うわけではない。京都の、おそらく大部分には普通の家庭があり、普通のビジネスがあり、活気ある商店街があり、コンビニがあり、若者が得体の知れない言語で話し、老人が「近頃の若い者は…」と嘆く日常に満ち溢れている。そういう現代の一地方都市としての京都を、東京の視点からどう見えるのかを描いてほしい。無理に、極端な京都弁を使わせる必要はない。不自然に標準語に訳すこともない。京都出身の俳優さん、女優さんを起用して、生の京都を紹介してほしい。ドラマに限ったことではなく、旅番組でもバラエティーでも。
 前にこんな番組があった。タレント3人が路線バスを乗り継いで旅をする人気シリーズだ。京都駅からバスに乗った3人は、南へ向かった。市バスの京阪中書島行きで、その路線は我が家の前も通っているので、食い入るように見ていた。バスの中で、タレントの1人が地図を見ていたが、「中書島なんて載ってないじゃん。何だ、この地図!」彼が見ていたのは、京都市街の観光マップ。普通、その類の地図は京都駅周辺以北しか載っていないので、当たり前である。そして、中書島に降り立って、「何だ、ここ。何にもないじゃん。普通喫茶店とか、駅前だったらあるだろが。」非常に腹が立った。ちなみに、中書島駅は、確かに小さな駅だが、特急も停車する駅ではある。バス停は駅の南側にあって、前がすぐ府立公園と宇治川の土手になっている。駅の表玄関は北側で、花街の面影を残す商店街に面している。彼らは、次に着いた楠葉駅(大阪府枚方市)でも、ぶつぶつ言っていた。「こんなの、ヒラカタなんて読めないじゃん、マイカタじゃないの!」旅行者の素直な気持ちを伝えるのは、時には必要だが、せめて編集段階で地元へのフォローをしてほしい。テロップなりナレーションなり…。これは、先に書いた、生の京都を見てほしいという気持ちに通ずる。さもなくば、東京だけで放映してもらいたい。
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 さて、話は変わるが、関西に住んで気づいたことの1つに、関西ローカルの番組が多いということがある。朝や昼のワイドショー、深夜のバラエティーは大阪発信のものが多い。初めはローカル色豊かだなと思ったが、考えてみると、自分に身近な地域を中心に放送してくれた方が、自分の生活に役立つことが多い。それに比べ、東京発の番組はどうだろう。「全国ネット」を標榜しながら、出演者にその意識が感じられないことがある。特に天気の話題。それは、冒頭とエンディングに目に付く。冒頭、「雨が上がってさわやかな朝になりましたね。」エンディングに数秒あるときに一言、「今日は傘をお忘れなく!」また、「春満喫!日帰り温泉の旅」などといった番組でも、関東一円が対象で、日帰りできるのは東京周辺の人だけというものがある。年末年始やお盆の時期のニュースでは、首都圏の渋滞情報ばかり延々と見せられることもある。
 いろいろな事情があるのだろう。特に、カネとヒトの制約が大きいだろう。しかし、これは関西に限らず、東京以外の全国の人が見ていることをわずかでも意識して、責任ある放送をしていただきたいものだと思う。
 なお、関西発の全国放送番組に、よみうりテレビの「ミヤネ屋」がある。平日の午後、毎日生放送されているニュース・情報番組である。関西で見ていると、身近な話題が多く面白いが、果たして東京で見ている人が、あるいは北海道、あるいは鹿児島で見ている人が、どのように感じているのだろうかと気になっている。

京都・観光文化検定試験改訂版



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京都検定問題と解説(第4回)



京都検定問題と解説(第5回)



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中村武生の京都検定日めくりドリル500問



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くまら

ソネフォトにコメントありがとうございます^^
by くまら (2009-07-12 19:56) 

yukitan

ソネフォトにnice!を有り難うございます。
by yukitan (2009-08-03 05:36) 

ヒロシ

ソネフォトにnice!&コメントを、ありがとう♪
by ヒロシ (2009-08-16 07:57) 

opas10

ドラマに共通する特徴の分析、最高です。京都を舞台にしたドラマだと嵐山から清水寺にシーンが変わってもああそうか、と簡単に受け入れていましたが、確かにお台場で起きた事件を追うのに浅草や柴又を回るようなものですよね。昨年中書島で下車して伏見まで歩きましたが、いろいろな表情を持ったなかなか趣のある町でした。3人組のタレントは、町の粗探しをして文句を言うことは自分たちの感覚のおかしさを露呈することに気がつかないのでしょうね。
by opas10 (2009-09-05 12:52) 

bamboo

opas10さん、伏見へお越しいただきありがとうございます。
旅をするとき、事前にガイドブックその他を見て計画を立てるけれど、時としてそれらから受けたイメージから先入観を抱いてしまいます。実際にその土地へ行って先入観との違いに気づいたとき、それが快い驚きや発見になれば、それこそ旅の成果だと思います。しかし、中には自分の思い込みや先入観を押し付ける人がいます。例えば京都の人間は観光客に奉仕するものだと思っている人。道で誰彼構わずシャッターを押させる、それもタメグチで。京都を紹介するTV番組でも、往々にしてそのような感じを受けるものがあります。もっとも、そういうのを見て、「東京のヤツは何にもわかっとらへんわ」とほくそ笑んでいるのも京都人ですが。
by bamboo (2009-09-05 20:37) 

ne-neko

ソネフォトにnice、ありがとうございます。お礼が遅くなりました・・・。

学生のとき、京都によく遊びに行きました。(神戸の大学だったので)
阪急の河原町から祇園方向へトコトコ歩いて、八坂神社を右折して、清水寺に行くのが、好きでした。途中で辻利に寄ったりして・・・。

テレビの件、本当におっしゃるとおり!!
東京の人だけが見ているんじゃないこと、意識して欲しいです。
関西のいい意味で、だらだらした番組がみたいー。ラジオも懐かしい。

by ne-neko (2009-09-10 07:23) 

bamboo

ne-nekoさん、ありがとうございます。

>関西のいい意味で、だらだらした番組がみたいー。

→文中に挙げた「ミヤネ屋」は、全国放送ですよ。結構、関西のだらだら感を出してると思います。平日の昼間の番組ですが。
by bamboo (2009-09-10 23:17) 

ポン太miyaG^

(^_-)-☆ 

あら!、あら?
 結構、テレビお宅ではないですか・・・。

確かに おっしゃるとおりです。
 基本ストーリーを固めて、その流れに乗ることが長続きのコツ
こつ・骨と積み上げうと水戸黄門や大川越前のように何代にも
渡って親しまれますからネ。
 
  見ていて、疲れないのが一番
    これって!、人付き合いや夫婦仲と
     一緒のような気もします。

テレビの放送番組ですが・・・!
 確かに近畿・中部・四国方面は大阪を向いて世の中が進んで
いるようですネ。

 平成13、14年と和歌山県の五条、三重県の松坂に一年づつ
いましたが・・・! 大阪のテレビ番組中心で多少九州の番組が
チラホラだったよな記憶があります。
 東京の番組は殆んどなかったようで・・・まぁ~!、テレビかあまり
見ませんけど、時間を持て余して仕事をしていいたような・・・。

 山口県の下関(隅っこの小月ですけど)に平成4.5年の2年間
住んでいましたが・・・。
 ここでは福岡・東京、大阪を向いて生活が動いているようでした。

 因みに
福島県の会津以外、特に郡山は東京を向いていいました。
宮城県(仙台)、北海道は独自性が強く東京よりでした。

 しかし
何処に行っても
 水戸黄門、大川越前は人気番組でした。

これはから
 地上波デジタルに変わり東京タワーも役目お終わり、
新しいテレビ塔に変わるとどうなることでしょうかね。

    \(^o^)/楽しみです。
by ポン太miyaG^ (2010-03-30 15:03) 

bamboo

ポン太さん、
私のブログはご覧の通り、半年に1度更新するかしないかの放ったらかしでして、お恥ずかしい限り。ソネフォトやフォト蔵とは違うスタンスでやろうとして、やや計画倒れ、こんなになってしまいました。
ポン太さんは全国を渡り歩いていらっしゃるのですね。私が持っているような違和感は、もう腐るほど感じてこられたかもしれませんね。
by bamboo (2010-03-31 19:07) 

moa

楽しく読ませていただきました~^^
また更新してくださいね~(^o^)
by moa (2010-05-11 23:28) 

bamboo

moaさん、ご訪問ありがとうございます。
全然更新していないんで、お恥ずかしい限りです。
by bamboo (2010-05-12 09:59) 

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