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京都人の、京都人による、京都人のための [京都の街角]

 大阪の書店へ行って、ふと気がついた。「大阪コーナー」がない!
 京都市内の書店には、必ずといってよいほど「京都コーナー」がある。地図や観光ガイドブックだけでなく、京都の歴史や文化を紹介するもの、京都にゆかりのある人物の伝記、京都在住の作家の小説、京都出身タレントのエッセイや写真集、京野菜のレシピ、京ことばの辞典、等々。特に近年は、京都検定の影響もあるのか、『京都人だけが知っている』『京都人だけが食べている』『京都人だけの散歩道』『京都人も知らない意外な話』『京都人が書いた京都の本』『誰も知らなかった京都聖地案内』『京都人がひそかに愛する 京の路地・小路、かくれ店』……挙げたらきりがないほど、重箱の隅をつつくような小ネタ本が続々出版されている。まるでもう、これらの内容を知らなかったら、京都人として認めないと言わんばかりに感じる。
 はじめ、観光客向けなのかと思ったが、およそ観光とは縁のなさそうな商店街の個人商店にも「京都コーナー」があったりする。一時のキャンペーンではなさそうだ。まあ、コーナーを作らざるを得ないほど、この類の本の種類が多いということなのだろう。大型店舗となると、京都コーナーの中でもさらに細分化されていて、歴史、寺社、美術、文学、産業などに仕分けされている。
 それにしても、これほどまでの出版物は誰をターゲットにしたものだろう。買う人あってこその出版のはずである。その内容からして、観光客目当てではないだろう。
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 京都検定で思い出したが、前にある人がこんなことを言っていた。「京都検定なんて、京都に生まれて育った者なら、小学生でも満点取れるわ。あれをわざわざ受ける奴は、自分で田舎者をひけらかすようなもんや。」この人のように、京都検定は京都人には簡単だ、と思っている人は多いのではないだろうか。実際のところはどうなのだろう。
 京都検定、正確には京都観光・文化検定は、年1回行われている。1級から3級まであり、合わせて8,000人前後が受検している。2007年度(第4回)の内訳を見ると、驚くことに受検者の50%を京都府民が占めている(かくいう僕も第4回を受検したので、昨日今日京都に住んだ新参者も含まれてはいるのだが)。ちなみに京都以外では、大阪府が12%、東京都が7%、以下、滋賀県、兵庫県と続く。では、合格率はどれくらいかというと、3級が38.8%、2級が25.0%、1級はわずか8.1%である。仮に合格者の全員が京都府民であったとしても、多くの京都人が不合格になったと思われる(厳密には、3級と2級は同時受検できるから、2級不合格・3級合格ということもある)。
 次に、小学生でも受かるか。残念ながら、10代の受験者は非常に少なく、したがって合格者もわずかである。3級受検者は20代が一番多いが、2級・1級となると50代・60代が中心になっている。実際、問題を見てみよう。第4回3級の第1問である。
 「平安京は『四神相応之地』といわれる。北に位置するのはどれか。
  (ア)玄武  (イ)朱雀   (ウ)青竜   (エ)白虎」
 正解は(ア)。これは、小学生には難しいだろう。第一、京都に生まれ育ったならわかる問題とは言いがたい。京都検定の問題は、実はかなり深い知識を要求しているのである。
 もしかしたら、高校生・大学生が京都検定を受けたら、東京の学生よりも京都の学生の方が成績が低いのではないかとさえ思える。というのは、東京の学生は修学旅行などで京都へ来ている。清水寺、金閣(寺)、銀閣(寺)、平等院くらいは訪れたことだろう。しかし、京都の人は案外、金閣・銀閣を知らない。金閣の近所に住んでいることを自慢しながら、金閣に行ったことがないと言う人がいる。だって、あんなもんは昭和の建物やし、国宝でも何でもないからだそうである。まあ、それだけ知っているだけマシか。何やら複雑な思惑が見え隠れする。
 そういえば、京都検定対策のワークブックの1つに、こんな問題があった。
 「『京の春は牛の尿(いばり)の尽きざる程に、長くかつ静かである』と書いた文豪は誰か。」答えは夏目漱石。漱石は『虞美人草』の中で、確かにそう書いている。しかし、よりによってなぜ、この部分を引用して問題に取り上げたのかに疑問を感じる。というのも、漱石は決して京都を悪く書いていないのである。長くなるが、『虞美人草』から少し紹介すると、
 「古い京をいやが上に寂びよと降る糠雨が、赤い腹を空に見せて衝(つ)いと行く乙鳥(つばくら)の脊に応える程繁くなったとき、下京も上京もしめやかに濡れて、三十六峯の翠(みど)りの底に、音は友禅の紅を溶いて、菜の花に注ぐ流のみである。」
 実に美しいではないか。牛の尿の下りでも、実は直前まで、このような情緒的な俳文で語られている。比叡山に向かう主人公2人が通りがかりの大原女に道を尋ねるシーンだ。その大原女が牛を連れている。牛の尿は、牛を出した縁で俳諧的なユーモアを交えつつ、また八瀬あたりの牧歌的風情を表現したものだろう。だが、漱石は江戸っ子だ。東京の人間だ。憶測だが、ここを引用した筆者は、東京の人間は京都の良さがわからぬ、してやったり、と思ったのではないか。
 『京都人だけが知っている』というような本が売れるのは、『自分の説明書』や、ちょっと前の『中央線な人』などとは少し違うような気がする。生粋の京都生まれ京都育ちが、こっそり盗み読みして、知っていることを確認してほくそ笑んだり、知らないことを恥じたりしている姿が眼に浮かぶ。そして明日には、東京人をつかまえて、「そんなことも知らんのか、常識やんか」と、やっていそうである。
 京都人の方々、気を悪くしたらごめんなさい。僕自身も、これらの本に「おっ、知ってる知ってる」「へえ~、そうなんだ」と喜んだり驚いたりしている1人である。

京都・観光文化検定試験改訂版



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京都検定問題と解説(第4回)



京都検定問題と解説(第5回)



京都検定問題と解説2級・3級(第1回)



京都検定問題と解説(第3回)



京都検定問題と解説 1級・2級・3級全255問(第2回)



中村武生の京都検定日めくりドリル500問



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